Our research
Our research
本研究室では、ナノマテリアルを舞台に対称性に着目しての量子物性や機能性の実験的研究を行っています。特にグラフェンや二流化モリブデン(MoS2)を初めとした二次元物質は様々な構造・対称性を持った物質が存在するため、非常に幅広い物性現象をカバーする物質群です。また、構成元素によって結晶構造と対称性がほぼ決まってしまうバルク物質と異なり、結晶多型の存在や人工構造作製の自由度が高いため、対称性の効果だけを切り出すことが可能となります。
物性を評価する多数の手法の中でも、本研究室では顕微光学測定を大事にしています。「百聞は一見に如かず(Seeing is Believing)」ということわざがあるように、試料の状態を常に観察できるに越したことはありません。しかし、極低温や高磁場下といった環境でナノマテリアルの顕微観察を行うのは簡単ではありません。本研究室には温度1.8K、磁場9Tまでの範囲で顕微観察を行いながら量子輸送測定や分光測定を行う独自の装置を立ち上げました。試料の状態を確かめながら物性測定ができることに加え、これまで困難であった極低温・高磁場下における顕微分光や光電流測定、発光測定を実現しました。従来と異なる新たな視点から、ナノマテリアルの量子物性を捉え、新奇機能性の開拓を進めていきます。
非線形光応答
非線形応答は対称性の影響を大きく受ける典型的な現象で、光の持つ交流電場に対する応答として第二高調波発生(SHG)やバルク光起電力効果(BPVE)が知られています。特にBPVEは太陽光発電への展開が期待されるため、基礎と応用の両側面から注目されています。本研究室では二次元物質を「丸めた」擬一次元系[1]や、van der Waals積層系[2]においてBPVEの研究を行っております。新たなBPVE材料の探求や、効率アップを目指した試料の最適化を進めています。
BPVEは現象名であるため、そのメカニズムは一つではありません。この点はp-n接合で発生する光起電力効果と大きく異なります。BPVEはインジェクション電流やバリスティック電流、さらにはBerry接続の影響によるシフト電流など、様々な原理によって生じえます。単なるBPVEの観測だけでなくその生成メカニズムも明らかにするため、我々は光電流のダイナミクスにもアプローチします。
また、それぞれの物質が持っている他の物性との相乗効果にも注目しています。例えばWS2ナノチューブは高濃度に電子ドープすると10K以下で超伝導転移し、その際に擬一次元構造に由来するLittle-perks振動を起こします[3]。このような特異な電子状態における非線形光応答を明らかにしていきたいと考えています。
[1] YJZ et al. Nature 570, 349-353 (2019).
[2] YJZ et al. Appl. Phys. Lett. 120, 013103 (2022).
[3] Qin et al. Nature. Commun. 8, 14465 (2017).
低エネルギー物性の可視光検出
超伝導転移や電荷密度派(CDW)が形成されると電子状態にエネルギーギャップが発生します。ギャップはとても小さく光の周波数に換算するとテラヘルツ域に対応します。そのため、回折限界の問題からナノマテリアルにおける電子ギャップの評価は困難でした。
本研究室では、可視光を用いた低波数ラマン測定を用いて電子ギャップの検出にトライしています。光を用いることで、角度分解光電子分光(ARPES)や走査型顕微鏡で評価できない非表面の電子状態、例えば電界誘起超伝導[4]など、これまで伝導測定が主なプローブだった電子状態に光学的にアプローチします。
[4] Ye, YJZ et al. Science 338, 1193-1196 (2012).
System: YJZ et al. Appl. Phys. Lett. 120, 053106 (2022).
真性一次元モアレ超格子
二次元物質の(ツイスト)van der Waals積層構造で出現するモアレ超格子は、長らく低ツイスト角に特有で二次元的な周期性を持つと認識されていました。一次元的に見えるモアレ超格子もありましたが、数学的には非等方な二次元格子です。これに対して我々は、WTe2を高角度でツイストすると一次元のモアレ超格子が出現することを発見し(右図)、理論的にも周期性が一方向にしか定義できない正真正銘の一次元格子が実現されました[5]。一次元モアレ超格子の本質を明らかにするとともに、モアレ超格子が生み出す一次元ポテンシャルが元の二次元物質の物性に与える影響を明らかにするため、量子輸送特性や光物性の解明を進めていきます。
[5] Yang, YJZ et al. ACS Nano 19, 13007-13015 (2025).
Van der Waals積層のその場物性評価
二次元物質のvan der Waals積層の特徴は組み合わせやツイスト角を自由に制御できることであり、実質的に無限通りの構造を作ることができます。しかし、ツイスト二層グラフェンのマジック角のように、新奇物性の出現しうるツイスト角をあらかじめ理論的に予測できることは非常に稀です[6]。小数点以下の精度で全てのツイスト角を網羅的に作り分けることも実質的に不可能です。
理論予測に頼らず無限通りのツイスト角を網羅するためには、ツイスト角を変化させながら物性評価する手法が不可欠です。これまでに、走査プローブ顕微鏡を応用した量子ツイスト顕微鏡が実現されました[7]。この手法では量子輸送測定による物性評価が実現していますが、光学特性の測定には応用できません。我々は、顕微分光装置に小型積層装置を融合させることで、光物性のツイスト角制御を実現したいと考えています。
[6] Bistritzer & MacDonaldo Proc. Natl. Acad. Sci. USA 108, 12233-12237 (2011).
[7] Inbar et al. Nature 614, 682-687 (2023).